暑いですね。長い・重い本はちょっと置きましょう。
 前2回に挙げた中には絶版もあったようで、管理人氏から「どこで売っているのか」と聞かれました。そこで今回は手に入りやすい雑誌のレビューとしました。PR誌です。
 
 出版社が発行しているPR誌として、自社新刊本紹介や著者対談がメインなのはあたりまえですが、小説誌・総合誌が売れなくなり久しい今、PR誌にひっそりと連載されのちに単行本になる作品がこのごろ多いようです。不況のおり「三省堂ぶっくれっと」など惜しい廃刊もありますが、まだまだ結構種類が出ています。
 薄く小さく持ち運びに便利で、興味のあるところだけ読んで気軽に捨てられるし、買ってまでは読まないけれど面白いな、という文にも当たることも多くあります。
 以下、毎月全部手に入れて読んでるわけではありませんが、私がチェックしている中からいくつかご紹介します。

「波」(新潮社)
 表紙は作家の揮毫かイラスト。多くの出版社系PR誌で一番手に入れやすく内容も総合的で、いつ読んでも安心の1冊。現在連載中では、ベテラン推理作家夏樹静子のノンフィクション作品「心療内科を訪ねて」や、櫻井よしこの自伝「何があっても大丈夫・コットン街二一二番地」が単行本化されれば話題になりそうな力作。
 去年連載中楽しみにしていたのが「うさぎのミミリー」(庄野潤三)。本当に何も起こらない日常生活…お墓まいり、独立した子や孫の近況、近所からのお裾分け、病院通い、宝塚観劇…しみじみ読んでしまう老大家の作品でした。

「本の旅人」(角川書店)
 なんといっても大島弓子の連載が読めるのはここだけ(「グーグーだって猫である」)。サバのシリーズその後といえば分かる人は分かります。作者のガン闘病が記され、数年前から主要マンガ誌より姿を消した理由がわかりびっくりしたものです。それだけでなく、一人ぐらしの生活で病気になったとき仕事や身の回りの整理、心境の変化などがつづられ、静かな中の緊迫感はたいへんなものでした。今は飼い猫数匹と作者の生活が楽しげに描かれていますが、一番最初に読みます。
 近頃は質量共に充実し、第33回大宅壮一ノンフィクション賞「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万里)もここで読みました。少女時代の数年を冷戦期のプラハ、しかもロシア語学校で過ごしたというのはそれだけで特異な経験で、当時の学校の様子だけでも面白かったのですが、東欧激動の時代を乗り越えた友人たち一人一人の現在も現代史の一面です。
 また、前に出しました「短歌はプロに訊け!」のパート2である「短歌があるじゃないか。」(穂村弘・東直子・沢田康彦)の不定期連載が気づかないうちに始まっていました。1年位したら単行本化されるでしょう。
 
「銀座百点」(銀座百店会)
 これは出版社ではなく、東京銀座の自他共に認める一流店がスポンサーになって出しているタウン誌です。
 土地柄歌舞伎・映画関係の読み物が充実していますが、それ以上に専業作家でない(なかった)人に書かせるのがうまく、向田邦子のエッセイの初出のかなりはここです。和田誠が駆け出しデザイナー時代を振り返った「銀座界隈ドキドキの日々」<文春文庫>も昔ここで連載されたはずです。
 高級感あるグラビアや広告写真の美しさも出色。庶民とは住む世界が違うなと感じられる記事(若旦那紹介の「次代のホープ」等、)もありますが、これもこの雑誌のカラーでしょう。
 店内の美しいディスプレーの脇に数冊積まれていることが多く持ち出しにくいのですが、にっこり「頂けますか?」と手に取れば、そこは一流「どうぞお持ち下さい」と店員さんは必ずOKしてくれます。なお、地方でも<百店会>加盟店の支店でもらえます。
 
「青春と読書」(集英社)
 過去、さくらももこ「もものかんづめ」や椎名誠「岳物語」など大ヒットが出ています。誌名どおり読者対象が若く、コバルト出身者やTVでおなじみの人をそろえ、「小説すばる」小型版という感じ。前は辻仁成なんかもよく書いていた気がします。
 今連載中の小説では耽美系と思っていた久世光彦が、少年少女孤島漂流記を書いているのが以外なところ(「約束の夏」)。
 わたしは開高健は読んだことがないので今ひとつピンときませんでしたが、ずっと載っていた内幕もの「開高健のいる風景」(菊谷匡祐)がまとまったので、これから新聞書評などで紹介されそうです。

「草思」(草思社)
 ハウツーや啓発ものでベストセラーを連発している出版社。
 月ごとにワンテーマをもち、6月は「迷走する日本の教育」。ちょっと斜に構えた編集で、内容はちょっとうがちすぎかもしれないけれど大新聞などでは言いにくい発言が多く、ある意味でバランス感覚が評価できると思います。
 この雑誌にも一部が載っていましたが、「からくり民主主義」(高橋秀実)は沖縄米軍問題や原発など、善良な市民×国あるいは大企業という図式が正義×悪という単純なものか? という疑問をまとめた話題作です。

「花椿」(資生堂)
 化粧品最大手資生堂が出しています。ドラッグストアの片隅のカゴなんかに丸めてよくおいてあります。
 薄いけれども大判で、ファッションレビュー、美術ネタなど結構きっちり載っていてアート系ビジュアル誌としての体裁が整っており、流行通信やスタジオボイスと同じ匂いを感じます(デザイン重視で文章が読みにくいのも一緒)。
 600号を越えている戦前からの雑誌で、企業PR誌としてもかなり古い部類に入るのではないでしょうか。一回始まると連載も長い。説話風ショートショート「にっぽん草子」(海野弘)は120回以上。現代詩「花椿賞」の発表もやっています。

みな巻末に「定期購読のお願い」などありますが、せっかくタダですのでどんどん持って帰りましょう。ネット通販にも良さはありますが、街の本屋へ行く楽しみはこういうところにもありますね。


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