一九九四年九月、アテネで開催された国際バレーボール連盟(FIVB)総会において、ルールの一部改正案が承認され、翌一九九五年より施行されることとなった。
 まず、サーブを打つ場所は、改正前はエンドライン後方の、ネットに向かって右から三メートルに限られていたが、改正後はエンドラインの幅を一杯に使うことができるようになった。
 また、レシーブ等の際、身体のどの部分でボールをヒットしてもよくなった。腰から上と規定されていたものが、一九九二年のルール改正で膝から上に緩和されていたが、ついに身体の部位に関する規定は撤廃されたわけだ。これにより、足を伸ばしてボールを上げてもよいことになった。
 これらのルール改正の背景には、どうした意図があるのだろう。
 サーブをきちんとレシーブし、セッターの頭に正確に上げることが、攻撃の基本であったはずだ。そうすることができれば、後はセッターを基点に、縦横無尽の攻撃のバリエーションを展開しうる。相手コートに鋭いスパイクを打ち込むことも、比較的容易ではなかろうか。
 しかし、サーブを打つ者に有利に働くであろう前者の改正により、サーブレシーブをセッターの頭に返すことは、改正前に比すなら困難になったといえる。それに伴い、相手コートに鋭いスパイクを打ち込むことの困難性もその分増した。
 一方、レシーブをする者に有利に働くであろう後者の改正からは、仮に一歩も動けないような鋭いスパイクを打ち込まれたとしても、ボールが偶然足にあたって上がり、プレーが続行されるという場面も想定できる。
 なお、正確なレシーブの実現には、やはり膝や腿ではなく、基本どおりに腕でボールをヒットすべきであろうから、その後の攻撃の展開をにらみ、セッターの頭に正確にボールを返すことを目標とするとき、この後者の改正がサーブレシーブをする者に有利に働くとは思えない。
 以上のことから、一九九四年のルール改正の背景には、鋭いスパイクによりあっさりとラリーが打ち切られてばかりでは、試合の盛り上がりは望めないとの考えがあったのではないかと推測される。そうならないように、ラリーの継続する機会をもっと増やそうとする思惑があったのではないか。
 テニスにおいても、近年、サーブの高速化が進み、全体にサービスエースの数が増えているという傾向がみられるようだ。ラリーが続かず面白くないとの声を受け、いくぶん速度を抑えるボールの使用に踏み切ったりもしているとのことだ。
 一九九四年のバレーボールのルール改正にも、何とか試合内容を面白いものにしたいという切迫した思いは読みとれるが、実際に効果があがったかと問えば、はなはだあやしいといわざるを得ない。サービスゾーンを開放したり、足でのプレーを許したりしたところで、以前に比べどれほど長くラリーが続くようになったのかは実際には心許ないし、むしろ、エンドラインの真ん中からのサーブや、足をひょいと伸ばしてのレシーブを想像すると、滑稽な感じさえ受ける。
 ところで、一九九二年のルール改正では、タッチネットの反則に関する判定基準が変更されている。改正前には、かすかな接触であっても、ネットやアンテナに触れることは直ちに反則であると定められていたが、審判にしかわからないような接触を反則としラリーを打ち切っていては、ゲームの盛り上がりを妨げるとの意見も多くなっていたらしい。観客も、不可解な思いを抱くのではないか。そこで、ゲームの盛り上がりにむやみに水を差すようなことのないよう、プレーに影響しない接触は反則としない旨、ルールを変更したものである。
 このタッチネットに係るルール改正が、ゲームの流れをできるだけ活かそうとしたものであり、さらには、バレーボールというゲームの本質を尊重したものであると感じられるのに対して、先に挙げた一九九四年の二つのルール改正には、どちらをとってもあらずもがなの、小手先の対応ではなかったかという印象を禁じえない。


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